つめもの
-
2016年11月21日 07:51ペダル 雪成
この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。
「……」(もぞもぞ)
「……なんすか、珍しい」
「んー……おなかいたい、気がする」
「気がするってアンタ……まったく、ほら毛布掛けて。薬飲みました?」
「薬よりゆきの方が効く」
「っ……いいから薬飲めよ、白湯用意するから待っててくださいね」
「うん、」
「……すげー動き辛いんすけど」
「だってむり」
アンタ、弱ってるときだけは素直に行動に甘えが出るよな。なんて言ったらこうして甘えてくることもなくなるのかもな、なんて思えば、心のなかで喜びを噛み締めるしかできない。ちょっと早いけど、薬を飲ませたらもう布団にくるまってしまおう、寝てしまって辛いのなんか感じなければいい。
この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。 -
2016年11月04日 18:41月歌奇譚『夢見草』桜の章 補完
ただし公式さんが蛇足つけてくれるらしいので書いてた途中で終了~~
この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。
始さんから受け取った刀が坂本さんを貫いたとき、どんな力が働いたのかはよくわからない。でも、とにかく貫いた瞬間刀身が白く光って、身体を共有していた別の世界の俺が「じゃあな、俺」なんて言って忽然と気配が消えた。
持っていたはずの刀も、坂本さんも──坂本さんの流した血でさえも、目の前から消え失せる。身体中の力が持っていかれたような感じがして、ひどくだるくて眠かった。うっかり、布団に倒れこむように転がった。
目の前が霞み始めて、四肢に力が入りにくくなってきている。あー、俺もここまでか、なんてやっと悟った。ずっと不思議に思っていた、『自分が死ぬ』という感覚。俺よりもずっと不安に思っていた葵は、背を向けているけれどきっと泣いているのだろう。
俺はいなくなる。この世界から、消える。でも、ついさっきまでいた他の世界の仲間たちや、この世界には存在していない始さんに隼さん、それに坂本さんが残したものはこの世界から消えはしない。
だから、きっと俺が死んだとしても、この世界から消えたとしても、俺が生きていたことはなくならないし、このまま世界は回るのだろう。そう思えば、なんてことはないような気がした。
──瞬間、ふわりと薄紅が舞った。手を伸ばせば、確かによく見慣れた薄紅の花弁を掴むことができて、夢ではないと実感する。桜の季節にはまだ早いはずだ、本来俺の余命を生ききってなお、花見ができるのか怪しいところだったのだから。
「見ろよ、綺麗だなあ」
「……うん」
もしかしたら、これもあの白き魔王様と名乗った彼の仕業なのだろうか? そう思ったら、なぜか気配は消えたはずの『俺』がそうだと笑った。おお、なんだ、気配を消すのが上手いな、『俺』。
なんでもう一度だけ見たかったことを知っているのだろう、と思ったけれど、あの人はそんなことなんかお見通しなんだろうな。満開の桜が舞い散るなかで眠りにつけるなんて、どれだけ幸せだろうか。
「花見、できたな」
「……うん、うん」
もう一度舞い散る花弁に手を伸ばす。いつもは虚空を掴む掌にしっかりと花弁の感触があって、掴むのがうまくなったな、と面白くなった。
「……葵、泣くなよな」
「……泣かないよ。泣くわけ、ないだろ」
「うん」
そんなこと言って、泣いてるんだろ。全く、俺の幼馴染様は強がりだなぁ、なんて少しだけ笑った。
この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。