恋人(?)の一瀬くん 後日談(前編) - 確かな月日を手放して
全体的に性行為描写を含みます。
※前提から読みたい方はこちら
→ 「恋人(?)の一瀬くん」( https://pictmalfem.net/items/detail/100232 )
【含むかもしれない要素】
バッドエンド(人によってはメリバだと思うかも。とにかく後味悪め) / 1対1の創作男女カプ(攻:男の子、受:女の子) / ♡喘ぎ少しあり(※2人とも) / 無理やり(同意なし)
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「……ん……、んっ……、せんぱい……っ♡」
ぴちゃぴちゃと音を立てながら、一瀬くんが私の口の中を舐め回している。ついさっき初めてのキスを奪われたばかりなのに、もうこんなことまでされてしまうなんて。どれもこれも、一瀬くんが強引なせいだった。
ほとんど押し切られるような形で私が一瀬くんの告白を受け入れたのは、ほんの数分前のこと。まさか返事をした瞬間に唇を押し当てられるなんて思っていなかったけど、さすがに一瀬くんも、はじめのうちは優しく触れ合うだけのキスをしてくれていた。でも、何回か繰り返しているうちに、結局物足りなさを感じたらしい。その後は抵抗する間もなく寝室へ運ばれて、ベッドの上で押し倒されながらキスの続きが始まって。そうなったら、一瀬くんはすぐに私の唇を無理やりこじ開けて舌を入れてきたのだった。
ファーストキスだとか、そういうこだわりは他の人に比べて薄いつもりでいた私でも、これには虚しさを感じずにはいられない。一瀬くんが舌を動かすたびに、私の中の何かがだんだん傷つけられていくような気がした。それでも一瀬くんのほうはというと、まさに夢中といった様子で甘い声を漏らしている。こんなことをして何が楽しいんだろう。
「さっきから、ぼくばっかりれすよね」
ぼんやりしながらただ時間が過ぎるのを待っていたら、突然、一瀬くんが何か言ってきた。舌をだらりと垂らしたまま喋るせいで、聞き取りにくいし、ちょっと情けない感じがする。一瀬くんがこんなにだらしない姿を見せるなんて意外だった。今まではもっときれいな印象というか、きっちりしていて上品な雰囲気があったのに。この短い間に、私の中の一瀬くんのイメージがどんどん上書きされていく。それも、だいぶ悪い方向に。
しばらくしても私が何も反応しなかったからか、一瀬くんは少し不満そうな顔をしながらも、ようやく舌をしまってくれた。
「だめですよ、もっと舌、絡ませないと。これじゃあまるで、無理やりしてるみたいじゃないですか」
「え?」
「逃げてばっかりいないで、ちゃんと先輩からも求めてくれないと。……だって、両想いなんですよね? 僕たちって」
そう言いながら、「ねえ?」としつこく私の顔を覗き込んでくる一瀬くん。その表情は緩みきっていて、だけど勝ち誇ったような、余裕たっぷりな雰囲気で。それがなんだか気に障る。
「先輩が言ったんですもんね。いいよ、って。僕に全部くれるって。言いましたもんね」
一瀬くんは、早く肯定してほしいとでも言うように、わざとらしく私の手を取った。指を絡めて恋人繋ぎみたいにしてくる、その自分勝手な態度が頭に来て、思わず何か言い返したくなる。
「両想いじゃないでしょ。勝手に私の気持ち、決めないでよ」
左手に絡みつく汗ばんだ指先を振りほどいて、一瀬くんの胸をぐいと押す。私がきっぱりと拒絶の意思を示すと、一瀬くんは驚いたようにその場で固まった。表情では平静を装っているつもりなんだろうけど、「先輩?」と喉の奥から絞り出したような声は震えていて、明らかに不安が滲んでいる。
「……じょ、冗談? ですよね。それか、聞き間違いかな……」
少し考えるそぶりを見せた後、いくらなんでも無理があるような結論を導き出した一瀬くん。だけど私の返事なんて求めていないようで、一人で勝手にうんうんと頷きながら、強引に納得しようとしているみたい。自分に都合が悪くなると、こうやってすぐに「冗談」なんてテキトーな言葉で片付けようとするのは、一瀬くんの良くないところだと思う。
「勘違いしないでね。私は別に、一瀬くんとこういうことしたいとか思ってないから。むしろ、そんなにがっつかれると引いちゃう」
一瀬くんがしつこいから仕方なく付き合ってあげてるだけなのに、それで「両想い」なんて言われたくない。そう思ってもう一度はっきり伝えると、私の言葉を聞いたとたん、一瀬くんの顔から笑みが消えた。直前までのデレデレした態度とのギャップなのか、一気に表情が怖くなったように見える。
ちょっと言い過ぎたかな、悲しませちゃったかも。そう思った次の瞬間、一瀬くんはなんの迷いもなく、いきなり私の服の裾に指を滑り込ませて捲り上げた。当然、私のお腹が丸見えになる。
ちゅっ。
突然、短い音が耳に入って、少し遅れてから「あ、今キスされたんだ」と気づいた。やめさせないといけないのに、予想もしていなかった出来事だったせいか、すぐには体が動かない。その間にどんどん服がまくり上げられていく。裾を掴む一瀬くんの手の甲が私の胸に触れたところで、はっと我に返って、慌ててストップをかけた。
「何を言おうと、僕の気持ちは変わりませんよ。今日は先輩と繋がるつもりで、いろいろと準備もしてきましたからね」
何回だめだと言っても、逃げようとしても、一瀬くんの手は全く止まらない。それどころか、「同意してもらえなくても、無理やりにでもするつもりです」なんて恐ろしい宣言まで飛び出してきた。
「……冗談……? だよね?」
ほとんど祈るような気持ちで尋ねても、返ってきたのは冷たい否定の言葉だけ。もしかして、これって本当にやばいのかもしれない。そう自覚したら一気に怖さが押し寄せてきて、心臓がバクバクと騒ぎ始めた。だけど、今の状況ではたぶん、私が物理的に逃げることなんてできない。できればどうにか説得したいけど、どうすれば。
「わ、私ね、いま……生理なの」
頭をフル回転させて、やっと思いついた言い訳を口にすると、一瀬くんが手を止めてこちらを見た。
「……そうなんですか?」
「そう、そうなの。だから、今日はできないかも」
ごめんね、と申し訳なさそうな演技をした。嘘をついてしまった罪悪感はあるけど、こんな状況だし、手段を選んでいられない。もはや、今この瞬間から逃げられるならなんでも良かった。生理だと言い張れば、今日のところは見逃してくれるはず。そうしたら、その後のことはこれから考えればいいんだから。
「んー……先週終わったところなのに、もう次が来たんですか? ずいぶん周期が不安定なんですね」
無感情に放たれた言葉を聞いて、背筋が凍り付いた。どうして、一瀬くんがそんなことを知ってるの。あまりに驚いて、なんで、と思わず口をついて出てしまう。あっさり嘘がバレてしまった。
「あ、やっぱり嘘なんだ。心配したのにな」
ひとりごとのように淡々とつぶやくその声にはどこか棘も感じられて、怖くて体が固まってしまう。嘘は良くないですね、と正論を突き付けられて、言葉に詰まった私はただ頷いた。
「先輩の体調のことは、僕にとっても大事な話なんですから……。そういう嘘ついちゃだめですよ」
一瀬くんの手が、私のお腹を優しく撫でてくる。おへその下のあたりをなぞるように動く指が不気味に見えて、息を止めてじっと耐えることしかできない。
失礼します、と形だけの挨拶をしてから、中途半端にめくられたままだった私のTシャツを一瀬くんが掴む。そのままひと息に、インナーのキャミソールごと首元までたくし上げた。胸元のカップ部分だけがかろうじて肌に張り付いて残ったけど、それ以外は上半身の服が一気になくなる。
「やっ! だめ、待って!」
「嫌ですよ。……元はといえば、先輩がいいよって言ったんですからね。約束は守ってもらわないと」
一瀬くんはそんなことをブツブツ言いながら、とうとう私の胸を覆っていたカップまで上にずらしてしまう。あっという間に両胸が外の空気にさらされて、慌ててそれを隠そうと動いた両手は、一瀬くんの片手によって簡単に絡め取られた。両手を頭の上で、ベッドに縫い付けられるように固定されてしまったせいで、大きく開いた胸をまじまじと見つめられるのが恥ずかしくて仕方ない。きれい、可愛い、と褒めてくる一瀬くんの声が熱っぽくなっていくのに気づいて、背筋がぞわぞわする。
「やめてよ……お願い……!」
「ほら、危ないから暴れないでください。それとも、そんなに見せつけるように動いて……僕のこと興奮させたいんですか?」
手を解放してもらおうと力を込めたり、足をばたつかせたりしていたけど、一瀬くんの一言を聞いて体が固まる。知りたくなかった事実だった。私にそんなつもりは全くなかったのに、一瀬くんにはそういうふうに見えているなんて。これ以上抵抗したって、ただ無駄に疲れるだけなんだ。そう悟ってしまっては、もう脱力するしかない。
「やっと諦めてくれました? ……じゃあ、胸触りますからね」
まるでわがままを言う子どもを諭すような口調で言いながら、一瀬くんは空いているほうの手で私の胸をそっと撫でた。そのまま手のひらで包み込んで、弾力を確かめるみたいにふにふにと揉んでくる。普段は下着によって守られている場所に他人の手で触れられる違和感からか、思わず体がこわばった。
もうだめだ。逃げられないんだ。そうと決まってしまったのなら、私が今からできることなんてひとつしかない。
「ね、ねえ! 一瀬……くん……っ」
ただでさえさっきから機嫌が良くなさそうな今の一瀬くんに声をかけるなんて、本当ならあまりしたくないことだけど。それでも勇気を出して絞り出した声は、自分でも情けないくらいに震えていた。私の声に反応して一瀬くんの手が止まって、でも同時に大きなため息をつかれてしまう。何度も遮られて不満が溜まっているのか、一瀬くんはもう不機嫌なのを隠すつもりもないようだった。
「なんですか? まだ嫌だとか言うんですか?」
「違っ……あんまり、い……、痛くしないで……おねがい。もう、嫌だって言わないから……」
最後のほうは消え入りそうなくらいにか細い声になってしまう。もちろん恥ずかしさもあったけど、大部分は罪悪感からくる後ろめたさが原因だった。今までさんざん抵抗していたくせに、この期に及んで優しくしてほしいなんて言うのは図々しいような気がしたから。だけどやっぱり、どうしても痛いのは嫌だし、怖い。どうせ逃げられないのなら、せめて少しでも苦しまずに済むほうがよかった。
「え、当たり前じゃないですか。ちゃんと優しくしますよ。最初から僕はそのつもりです」
私のほうは不安な気持ちでいっぱいだったのに、一瀬くんは、何を今さら、みたいな顔で言う。ついでに「先輩に気持ちよくなってもらうために、たくさん調べてきたんですよ」なんて自信満々にアピールしてきたから、あはは、と愛想笑いでごまかした。
私が受け入れる選択をしたことが、一瀬くんにとってはよほど嬉しいことだったのかもしれない。すっかり機嫌を良くしたのか、一瀬くんはさらに予想外の提案まで持ちかけてきた。一瀬くんの邪魔をしないと約束できるなら、という条件付きではあるものの、私の両手を自由にしてくれるつもりらしい。この際、これくらいの条件ならささいなことだと思って迷わず頷いた。
「よかった。正直、ずっと片手が塞がってると不便だったんですよ。先輩のこと抱きしめられないですし」
解放された瞬間、一瀬くんに力いっぱい抱きしめられたけど、今となってみればハグなんて可愛いものだと思えてしまう。
ただじっと抱きしめられている私とは対照的に、一瀬くんはどうにも落ち着かないのか、一人でもぞもぞと動いている。いろいろな体勢を試していたけど、結局この状態のまま抱きしめるのを諦めたのか、しばらくすると一瀬くんは私から体を離した。
「先にこれ、脱がせちゃいますね」
そう言って一瀬くんは、たくし上げられたままだった私の服をまとめて掴んだ。どうやら、私の首元に布が集まっているせいで抱き心地が悪かったらしい。脱がせやすいように私が両手を上に上げてばんざいの姿勢を取ると、一瀬くんはお礼を言いながら、襟元を器用に動かして私の頭をくぐらせた。長い髪の毛を撫でつけるようにして最後まで脱がせ終わると、Tシャツとキャミソールを丁寧に分けて、一枚ずつ畳んでくれている。一瀬くんの、こういう几帳面なところは素直にすごいと思う。
畳んだ服をベッドの隅にそっと置くと、一瀬くんは改めて私を抱きしめてきた。そして私の首元に顔を埋めて、そのままそこにキスを落とす。さっきまでは服が邪魔でうまくできなかったのか、それを取り戻すように、少しずつ場所を変えながらしつこく吸い付いているらしい。私の肌の全部の場所にキスをするくらいの勢いで唇を押し当ててくるから、ちゅっ、ちゅっという短い音が何回も耳に響いて、気が遠くなりそうだった。
「先輩、美味しそう……」
声に反応して意識がそこに戻る。今の言葉はどういう意味なのかと思っていたら、一瀬くんが私の胸の先端に唇を寄せて――そのままぱくりと口に含んだ。いきなりのことに驚いて私が小さく息を漏らすと、こちらに向けられた一瀬くんの両目が嬉しそうに細められる。舌先が胸の上を行ったり来たりして、ざらざらした感触が少しくすぐったいような、変な感じがした。
なにも出てこないはずのそこを、一瀬くんは一生懸命に吸っている。味わうようにうっとりと目を閉じて、右、左、そしてまた右。交互に吸い付いて離れないその様子は、まるで。
「なんか、赤ちゃんみたい」
思ったことをそのまま口にすれば、それに反応するように一瀬くんは動きを止めた。数秒前まであんなに夢中だったのに、急に熱が冷めたように頭を上げる一瀬くん。その表情は、いかにも面白くなさそうで。
「そんなに年下っぽく振舞ってるつもりはなかったんですけどね。……“先輩”って呼び方が良くないのかな」
拗ねたように、ぽつりとつぶやいた。
「……まいさん?」
いきなり名前を呼ばれて視線を向ければ、照れたような顔の一瀬くんと目が合う。
「付き合ったら名前で呼びたいなって、ずっと思ってたんですよ。……いいですよね、もう付き合ってるんだし」
いいよ、と私が答えると、一瀬くんは困ったような表情を浮かべた。不思議に思っていると、「まいさんも、もし呼びたかったらどうぞ」と言われて、なるほどそういうことかと納得する。たぶん、一瀬くんも私から名前で呼ばれたいんだろう。正直、私は呼び名にこだわりがあるわけでもないし、今から名前で呼んであげたって別に良かった。だけど、直接「呼んでほしい」と頼まれたならともかく、「呼びたかったらどうぞ」と言われただけでは応じる必要もないかな、という気持ちもあって。
私が乗り気ではないことに気づいたのか、一瀬くんは「いつでも待ってますから」とだけ言い残すと、また黙って私の胸を触ってくる。一瀬くんの唾液で濡れたそこを、軽くつついたり、遊ぶみたいにくるくると指を滑らせたり。やたらと先端ばかりを撫で回しているなと思ったところで、一瀬くんの指の動きが少し変わった。爪の先でカリカリと引っかくようにしたかと思えば、今度は指の腹で軽く弾かれる。
「……っ、ん……」
なぜか声を上げそうになって慌てて口を押さえたけど、遅かった。私の喉から漏れ出たかすかな高音は一瀬くんの耳にもしっかりと届いてしまったようで、その瞬間に一瀬くんが目を大きく見開いた。
「ああよかった、ちゃんと感じてくれてるんですね」
ここも硬くなってきましたよ、と言われて見てみれば、自分の胸の先がピンと立っていることに気づく。それくらいのことなら普段だって、例えば寒いときとかにも同じようになるけど。でも、今のこれはそういうのとは違う、と思った。神経がいつもよりもずっと敏感になっている気がして、一瀬くんの指が少し触れるだけで背中がざわざわする。
一瀬くんは「可愛い声、もっと聞きたいです」なんて言うけど、私はあんな声、もう絶対に出したくない。そう思って、必死に息を止めて耐えていたけど。
「……やっ……!」
どんどん硬くなっていくその場所を、人差し指と親指できゅう、と摘ままれると、まるで何かに突き動かされるみたいに体が跳ねた。驚いたのと同時に喉が震えて、一生懸命抑え込もうとしていた声がまた漏れてしまう。
そんな私を見て、一瀬くんは吐息まじりに「可愛い」とつぶやきながら、右手で私の太ももを優しく撫でてくる。そのまま服の中に滑り込んできた温かい手のひらは、下着越しに私の足の付け根をさすり始めた。嫌、だめ。そう言いたいのに、私の口からこぼれるのは掠れたようなか細い悲鳴だけ。一瀬くんの指先が前後にするすると何度も往復すると、なぜかうまく息が吸えなくて、余計に呼吸が荒くなった。
「そんなにすぐには濡れないんですかね。初めてだとこんな感じなのかな? ……すみません、僕もいろいろ調べては来たんですけど、経験があるわけじゃないので」
動かしていた手を止めて、一瀬くんが首をかしげる。私にはわからなかったけど、一瀬くんにとって想定外のことが起こっているらしい。なにかを考えていた様子の一瀬くんは、「ちょっと脱がせますよ」と一方的な報告をすると、私の答えも待たずに服と下着を引き下ろした。
一瀬くんに裸を見られている。一瞬遅れて状況を理解してから、一気に恥ずかしさがこみ上げた。私の体を上から下へとなぞるように滑り落ちていく視線が怖い。なるべく見られたくなくて、足に力を込めて閉じていたのに、一瀬くんの手によって簡単に開かされてしまった。
「だめ……、だめ! ほんとにっ、恥ずかしい……から!」
「こ、これがまいさんの……。可愛い……っ、かわいい……」
私のそこをじっと見つめながら、一瀬くんが軽く指で触れてくる。つんつん、と数回つついてから、指先をぐにゅっと滑らせるように動かした。
「っい! や、やだっ!」
その瞬間、私の体にものすごい衝撃が走って、反射的に腰を引いて逃げてしまっていた。
「あっ! すみません、痛かったですか?」
よくわからなかったけど、とにかくすごく嫌な感覚だった。体にビリビリと電気が走るような、耐えられないくらいの強い刺激というか。
「じゃあやっぱり、もう少し濡らしたほうがいいかな。とりあえず舐めますけど、いいですよね?」
「え? 舐めるってなにを……、ッ!?」
私の質問に答えるように、一瀬くんが私のそこに唇を寄せた。あまりにも信じられない行動に息が止まってしまう。ちゅ、と音を立てて離れる唇が軽く開いて、その隙間から濡れた舌先がちらりと見えた。一瀬くんが次に何をしようとしているのかを理解して、慌てて全力で抵抗する。
「っ、いや! やめて! や、絶対いやっ!」
ばしばしばし! 必死に上半身をひねって両手をじたばたさせても、シーツを叩くことしかできない。それでも、ここまで暴れている私を見て無視できないと思ったのか、一瀬くんは動きを止めてくれた。
「どうしたんですか……。別に恥ずかしくないですよ、恋人同士のスキンシップですからね」
「や、だ、だめっ! きたない……から……っ!」
夢中で訴えると、一瀬くんは何を思ったのか、もっとそこに顔を近づけた。「汚くないですよ。ほら、いい匂い」なんて本当に匂いを嗅ぐような真似をしてくるから、あまりの恐怖で涙が滲む。
お願いやめてと何度も口にすれば、聞き入れてくれる気になったのか、ようやく一瀬くんはそこから顔を離した。僕はちょっと興味あったんですけどね、と名残惜しそうにしながらも私の足元から視線を外す。やっと諦めてくれたことにほっとしながらも、さっきまでの緊張感が押し寄せてきて呼吸が乱れてしまった。
「……おふろっ、お風呂、入らなきゃ……っ」
そういえば私、まだお風呂に入っていない。今さらもう遅いのかもしれないけど、気づいたとたんに顔が熱くなってきた。
「まいさんはいつも綺麗だから大丈夫ですよ。それに今日はほとんどソファで寝てただけでしょう? 気にすることないですって」
一瀬くんはいつの間にかベッドから降りて、なぜか自分の鞄の中をごそごそしている。本当に気にしていないのか、私の話を真剣に取り合ってくれる様子はない。洗っていない体を触られること、一瀬くんは嫌だと思わないのかな。気になって聞いてみれば、「まいさんを汚しちゃうといけないので、僕は来る前にシャワー浴びてきましたよ」なんて衝撃的な発言が飛び出した。
「ず、ずるいよ、自分だけ全部準備して……!」
ずるい、ずるい。何度も非難すると、一瀬くんが謝りながらベッドの上に戻ってくる。
「そんなに怒らなくても……。まあでも、そこまで気になるなら拭いてあげますね。ちゃんと気持ちいいことだけに集中してほしいですし」
一応こういうのも持ってきてよかったです、と言って、いま鞄から出してきたらしい何かの袋を開け始めた。なんだろうと見ていると、お花のイラストがプリントされた可愛らしいパッケージの中から、白い布のようなものを一枚取り出す。ウェットシートだ、と気づいたときには、一瀬くんの手によってそれが私の体に押し当てられていた。
「これお花の香りなんですって。まあ、まいさんはもともと甘い香りで素敵ですけどね」
私がときめくとでも思っているのか、一瀬くんはそんな褒め言葉を口にしながら、薄いシート越しに指で私の敏感な場所を撫で回す。細かい隙間までいちいち丁寧に拭っていくから、どうにも体が落ち着かない。
「……やっ、そんなとこ……自分で拭くからいいよ……っ」
何回そう伝えても、私に自分で拭かせるという選択肢なんて一瀬くんの中にはなさそうだった。だけど、あまりしつこく騒いだら中断されてしまうかもしれない。せっかく一応綺麗にしてもらえているんだから、と我慢して、途中からは黙って身を任せていた。
「じゃあ、次はこれかな」
ようやく全部を拭き終わると、一瀬くんは使ったシートを片付けてくれてから、今度は小さなチューブ型のボトルを取り出した。てっきり拭いたら終わりかと思っていたのに、まだなにかすることがあるのかな。私が不思議に思っているうちに、一瀬くんはボトルを開けて、とろみのある透明な液体を自分の手のひらに垂らしている。何をするのかと聞くと、「滑りをよくするんですよ。お互い初めてですし、痛くならないように」と答えながら、いま拭いてくれたばかりの場所にその液体を塗り始めた。
「……っ! な、なにっ、なにこれっ……!」
「どうですか、嫌じゃないですか? これで痛くなくなるといいんですけど」
ぬちゃぬちゃと水っぽい音をさせながら、さっきシートで拭いていたときと同じような動きで、一瀬くんは指で隅々まで液体を塗り広げていく。私が痛がっていないかを気にしているようで、心配そうに声をかけてくれるけど、私はどう答えたらいいのかわからなかった。痛くはない。痛くはない、んだけど。くすぐったいわけでもなくて。さっきの、体に電気が走る感覚に少し近いけど、耐えられないほどの違和感は感じない。
混乱していると、そのうち体の奥から何かがこみ上げてくるような変な感覚があった。何かはわからないけど、なんとなくこのままにしていたらいけないような気がして怖くなる。それなのに、だめ、だめ、と頭の中で唱えても収まりそうにはない。せめてどうにか呼吸を止めようと頑張っても、一瀬くんの指がぬるぬると滑るのに合わせて、どうしても鼻から息が抜けていく。そうすると、自分のものとは思えない、恥ずかしい変な声が勝手に出てきてしまう。
「大丈夫、怖くないですよ」
私がずっと泣きそうな声を出していたからか、一瀬くんが手を止めて、優しく頭を撫でてくれた。そもそも私がこんなことになっているのは一瀬くんのせいなんだけど、その声を聞くとなぜか安心してしまうのが不思議で。
それなのに、私がほっとしていたら、一瀬くんはまたすぐに指を動かし始めた。自分の足の間から聞こえるくちゅくちゅという音がさっきより大きく感じて、耐えられない。
「だめ……っ、だめ! だめっ、一瀬くっ……、んっ」
「大丈夫ですから、力抜いててくださいね」
どうにか右手の動きを止めてもらいたくて、両手で一瀬くんの腕を引きはがそうとしてもびくともしなくて焦る。そうしているうちに、頭を撫でてくれていた手がいつの間にか移動して、今度は私の胸をいじり始めた。ときどき胸の先端を撫でられたり摘ままれたりして、そのたびに背中が反りそうになる。そうするうちに、一瀬くんが右手でも何かをそっと摘まんできた。
「……ッ!」
あまりの刺激に、体が勝手に跳ねた。と思った次の瞬間、一瀬くんがその状態のまま指をゆっくりと動かしてきて、また新たな刺激に体が追いつかなくなる。
「あ……すごい、こっちも硬くなってきてますね。そろそろいきそうですか?」
「っひ、……っ、ぁ、……あっ!」
一瀬くんが耳元で何か言っているけど、なんだかもうよくわからない。息が上手にできなくて、体にうまく力が入らなくて、一瀬くんの指の動きに合わせて甘えたような声を上げることしかできなくなってしまう。自分の意思とは関係なく反応する体が怖くて、もう大混乱だった。なのに、一瀬くんはそんな私の姿を気に入ったのか、「可愛い、かわいい」と言いながら私の唇をチュッと吸ってくる。
あ、もうだめ。そう思った瞬間、いきなり体がびくんと大きく跳ねた。これまでにないくらいの強い衝撃を感じたかと思えば、一瀬くんに触れられているところが勝手にひくひくと震え始めて、その振動にびっくりしてまた腰が跳ねてしまう。怖くて思わず一瀬くんに抱きつけば、一瀬くんもようやく指を動かすのを止めて、私の背中に手を回して力強く抱きしめ返してくれた。
「ふふ……上手にいけましたね。可愛い」
耳元でそう囁かれて、言葉の意味はよくわからなかったけど、うん、うん、と必死に頷いた。腕に力を込めてもう一度ぎゅっと一瀬くんにしがみつくと、背中を優しく撫でられる。それがすごく安心して、少し泣きそうになってしまう。
だけどすぐに一瀬くんは私から体を離して、また私の足を大きく開かせた。嫌、と言いたくて口を開いた瞬間、まだ震えるその場所を指先でくるくると撫でられて、情けない声しか出せなくなる。
「じゃあ、指いれますね」
しばらくそうしていると一瀬くんがそんなことを言って、それと同時に、私の足の間に中指をずぶりと挿し込んできた。体内に指が入ってくる違和感をわずかに感じたけど、それもほんの一瞬だった。そんなことよりも、さっきから与えられている刺激のほうに意識が行ってしまっていて、正直それどころじゃない。ゆるゆると動かされ続ける指先に私が気を取られているうちに、もう一方の指はどんどん奥へと進められていく。
「まいさん、上手ですよ。そのまま力抜いててくださいね」
力を抜いているわけじゃなくて、ただ力が入らないだけなんだけど。それでも、一瀬くんには私の姿が協力的に見えたようで、嬉しそうにされてしまう。そのうち「入りました」と言われて、同時に指の動きも止まった。下を向いてちらりと確認してみると、たしかに言われたとおり、一瀬くんの中指は私の中にほとんど入っているみたいだった。信じられない光景で、ちょっと怖い。
一瀬くんは特に気にしていないのか、私が痛がっていないことだけ確認すると、中に入れた指を軽く曲げて、私のお腹を内側から撫で始めた。痛くはないけど、なんだか慣れない感覚で逃げたくなる。だけど、今ここで動いたら自分の中が傷つくんじゃないかという不安もあって、下手に動くことができない。
「あれ、あんまり良さそうじゃないですね。今はまだ、こっちのほうが気持ちいいのかな」
私が何も反応しないからか、一瀬くんは指の動きを止めた。そして、指を入れているところよりも少し上にあるその場所に、つん、と軽く触れてくる。思わず私がぴくりと反応すると、一瀬くんは嬉しそうに顔を緩めて「やっぱり」とつぶやいた。よくわからないけど、その場所を触られると私はおかしくなってしまうらしい。そこはだめかも、と伝えると、「だめじゃなくて、いいんですよ」と矛盾したことを言われた。
「大丈夫ですよ。経験がないと、中は感じにくいらしいので。気持ちいいところから順番に慣れていきましょうね」
言われた瞬間、またわけもわからないまま頭が真っ白になって息が詰まる。さっき一瀬くんに言われた「いきそう」というのと同じ感覚だった。何をされているのかと思えば、親指でその場所をすりすりと撫でているらしい。
「気持ちいいですか?」
「わか……っ、ぁ、わかんにゃ、い……っ!」
それでもなぜか体はそれをすごく求めているのか、一瀬くんの指をもっと感じようと、自分から腰を擦りつけるような動きをしてしまう。
「でもほら、欲しいっておねだりまでしてるじゃないですか。……別に恥ずかしいことじゃないですよ、すごく可愛いです」
一瀬くんは嬉しそうに、私の腰の動きに合わせて、指の腹でそこを優しく押しつぶしてくる。指を通して一瀬くんの体温がじんわりと伝わってきたかと思えば、その熱ごと包み込むみたいに撫で上げられて。気づいたときにはまた勝手にお腹の中がびくびくと震え出していた。一瀬くんの指が動くぐちゅぐちゅという音に合わせて、自分のはしたない声が部屋に響く。うまく息ができないのに、一瀬くんが指を止めてくれないせいで苦しくてたまらない。その状態のまま胸の先端をきゅっと摘ままれて、とうとうそんなことでも「ひっ」と声を上げてしまう。必死に一瀬くんの肩をぐいと押したつもりが、ぺしぺしと軽く叩く程度になってしまったけど、それでようやく解放してくれた。
「今、まいさんの中が、僕の指を締め付けてるの……わかりますか?」
言いながら、一瀬くんが中に入れた指を引き抜こうとする。そうしたら、なぜかそれを追いかけるように腰が動いてしまった。つられて「あっ」と漏れてしまった声は、自分でもわかるくらいに切なげな響きで。認めたくないのに、どう考えても今、私の体は一瀬くんの指を求めてしまっている。
だけど一瀬くんはそんなこと、とっくにわかっていたのかもしれない。ギリギリまで指を引き抜いたかと思えば、私を安心させるように、今度はまたゆっくりと奥まで入れ直してきた。そうするとまた引き抜いて、そして入口のところまで来ると奥まで戻していく。時間をかけて指を抜き挿しする、その動きがなんだかいやらしくて恥ずかしい。見ていたくなくて目をつむると、耳元で一瀬くんに「そんなに僕の指で感じてくれてるんですね」と嬉しそうに囁かれた。そんなふうに思われるのは納得が行かない、とまた目を開けるけど、そこに広がっている光景はやっぱり生々しくて怖い。それなのに、一瀬くんの指の感触に集中してしまう自分がいる。
そうこうしているうちに指の本数が増やされていく。私の中を押し広げるように指を動かされているのに、意外と痛みは感じなかった。だけど、どこまで広げるつもりなんだろうという不安はずっと消えない。しばらく耐えていると、ふいに「これくらいほぐせば大丈夫かな」という一瀬くんの言葉が耳に入った。中の指がまとめて抜かれたかと思えば、一瀬くんが私の足元でごそごそし始める。次は何をされるのかと視線を向けると、どこからか取り出したゴムの袋を開けているところだった。
それを見たら、いよいよそのときが近づいているんだと自覚してしまって、すでに上がっていた息がさらに速くなっていく。気持ちが落ち着かないままなんとなく一瀬くんのことを見つめていると、ふいに目が合ってしまった。あまりじろじろと見るのもおかしいかなと慌てて目をそらすけど、どうしても気になってしまう。一瀬くんって、やっぱり男の子なんだな。当たり前のことだけど、私とは全然違う体つきを見て、改めてそう思った。下の服を脱いで手際よくゴムを付けている様子を視界の端で眺めていたら、ふいに、ぴちゃぴちゃという音が耳に入ってきて、思わずそちらに顔を向ける。
「それ、一瀬くんも塗るの?」
さっきの透明な液体をゴムの上から塗りつけている一瀬くんに声をかけると、「摩擦があると痛くなっちゃいますからね」と答えながらこちらに近づいてきた。どうやら準備が終わったらしい。
とろりとした液体に包まれたその先端が、私の足の付け根にそっと当てられる。濡れたもの同士の擦れる水音が部屋に響くのを聞きながら、まだ私はこの状況を受け入れきれていないのかもしれない。どことなく現実味がなくて、少しでも安心したくてシーツを掴んだ私の指先は、すぐに一瀬くんの指に固く閉じ込められた。
「……まいさん、好きです。絶対……絶対、大事にしますから」
そう言う一瀬くんの表情は、真剣そのもの。だけど、“大事にする”って、なんだっけ。今の私って、これって本当に大事にされてるのかな。一瀬くんの言葉を聞きながらそんなことを考えそうになったけど、次の瞬間。
一瀬くんが念入りに摩擦を減らしていたからか、ぬるりと滑り込むように一気に入ってきたそれは、私の意識が追いつく前に深い場所までたどり着いていた。それに気がついてから、鋭い痛みと違和感が襲ってくる。耐えられるわけもなくて、目の前にある肩を押し返そうともがいても、体ごと包み込まれるように抱き寄せられて身動きが取れなくなった。
ふと、自分の悲鳴に重なって、辛そうな吐息が耳に入った。あれ、もしかして一瀬くんも痛いのかな。気になって顔を上げたけど、目に入ってきたのは、今までに見たことがないくらいの、とろけたような力の抜けた表情。ときどき苦しそうに眉を寄せながらも、私を見つめるまなざしには熱がこもっていて。ああ、たぶんすごく気持ちいいんだろうなと思った。
好き、好きと繰り返しつぶやく唇が、強引に私の唇に重ねられる。逃げ場を奪うような激しいキスのせいで呼吸もままならない。さんざん「痛くしない」なんて言っておきながら、結局こんなに苦しめられるなんて。裏切られたような気持ちだった。
「ね……、見てください。繋がってますよ、まいさんと僕……っ」
繋がった部分を見せつけるように私の腰を持ち上げると、一瀬くんは中のものを少しだけ引き抜いてから、もう一度奥までずぷんと挿し直す。その衝撃でお腹から押し出されるように、「うぐっ」とくぐもった声が漏れた。
「ぁあ……かわいい、……まいさん♡ 僕のっ、僕のまいさん……っ♡」
一瀬くんは、吐息を絡ませたかすれ声で私の名前を呼びながら、深く、ゆったりしたリズムで腰を揺らしてくる。初めはそれも辛いだけだったのに、いつの間にか甘い心地よさを感じてしまう自分がいて。動きに合わせて自然と漏れていた私の息づかいが、少しずつ高く細い声に変わっていく。それが一瀬くんの気分をさらに盛り上げているようで、だんだんと動きは激しく、逃げ場をなくすほどにしつこくなった。
息苦しくなって逃げようとすると、その瞬間、必ず一瀬くんの手が私の敏感な場所を責め立ててくる。そうするともう私は、泣きそうな声を上げながらそれを受け入れて、溺れることしかできない。何も考えられない頭で、ただ一瀬くんの肩にすがりついて、乱れる息を吐き出し続けた。
ハッ、ハッ、と荒い息づかいが耳のすぐ近くで聞こえる。それに合わせて絶え間なく体を揺さぶられて、苦しいのに、ろくに抵抗もできない。私がそうやってされるがままになっているのをいいことに、一瀬くんは夢中で腰を動かし続けている。
「……っで、出ま、す、」
言い終わるか終わらないかのうちに、一瀬くんは自分でも抑えがきかないくらいの勢いで、容赦なく私の体を掴んで引き寄せた。全身がぴったり密着するほどに抱きしめられて、私を押しつぶすように体重をかけてくるから息ができない。酸素を求めて思わず口を開くと、唇の隙間をこじ開けて熱い舌が挿し込まれてきた。
「……ふ、……っ……まいさ、……んん……っ♡ ん♡」
キスの合間に、ん、ん、とほとんど吐息のような声を漏らしながら、一瀬くんはまた腰を強く打ち付けてくる。
でも、それが終わると、今度は一気に力が抜けてしまったようで。腰を引くと、まだ緩く絡めていた舌をぬるぬると少し動かしたあとに唇も離して、そのままベッドに突っ伏した。
「……すみません。最後のほう……あんまり優しく、できてなかったかも」
私の頭の真横でベッドに顔を沈めながら、くぐもった声で一瀬くんが謝ってくるから、いいよ別に、と短く返事をした。もう全部終わってしまったんだし、今さら怒るのもバカバカしい。
「まいさんのこと、好きです。ほんとに好きなんですよ、僕」
こちらを向いてそれだけ言い切ると、はあー、と大きなため息をついて、一瀬くんはまたベッドに顔を埋めた。
ついさっきまでガツガツ腰をぶつけてきていたくせに、なぜか今になって急に弱気になってしまったらしい。耳をすますとグスンとすすり泣く声まで聞こえてきた。
「でも……まいさんは嫌いなんですよね。僕のこと」
顔を上げずにまた一瀬くんが言う。内容は全部聞き取れたけど、答えづらい質問だったから聞こえなかったことにした。
私の返事がないとわかると、一瀬くんは諦めたようにまたため息をついてから、姿勢を変えてもう一度こちらを向く。
「でもまいさんって、嫌いな男に抱かれてあんなふうになっちゃうんですね。ちょっと意外でした」
え、なにそれ。さすがに無視できなくて聞き返すと、「だって結局、最後はずっと僕のこと求めてたじゃないですか」と言う。どこ触っても可愛い声であんあん言ってたし、なんてデリカシーのかけらもない指摘までされて、恥ずかしくて何も反論できなくなる。
「他の男が相手でも同じように甘えるんだろうなと思うと……正直だいぶ複雑ですけどね」
「そんなっ、そんなことないよ!」
私はそんなに下品じゃない! そう思って慌てて否定すると、一瀬くんが驚いたようにこちらを見つめてくる。
「じゃ、じゃあ、僕だけなんですか? ……相手が僕だから喜んでくれた……ってことですか?」
「えっ?」
「もしかして僕のこと、好きになってくれたんですか? だからあんなに求めてくれた……?」
期待したような声でそう聞かれると、自分の気持ちがわからなくなってしまった。
でも確かに、一瀬くんの言うとおりなのかもしれない。思い返せば、さっきの私は何度も自分から一瀬くんに抱きついて、みっともない声を上げて全部受け入れていたような気がする。それなのに、もしもここで私が一瀬くんを嫌いだなんて言えば、私はそんな相手に体を許して気持ちよくなったということになってしまう。だけど、私はそんな恥ずかしい人じゃない、はず。
それなら。その二択しかないなら。
「……そう、かも? たぶん私、好きなのかな。一瀬くんのこと……」
それが私の出した答えだった。
だって逆に、そうじゃなきゃおかしいから。好きじゃない人とこんなことをして気持ちよくなるなんて、ありえないから。自分が気づいていないだけで、本当は私、一瀬くんのこと好きだったんだ。そう、きっとそう。
「たぶん……ですか。曖昧ですね」
ちょっと不満そうに言われる。だけど一瀬くんからしてみればあまりいい気はしないと思うし、当然の反応だと思う。
本当は、私の中にはまだ迷いが残っていた。だけど、いい加減にもう認めてしまわないと。心の奥底に残るわずかな違和感を早く消し去ってしまいたくて、今度は自分から一瀬くんにキスをしてみる。私からのキスが嬉しかったのか、一瀬くんは機嫌を直してくれたようで、すぐに頬を緩めた。
さっきの一瀬くんのやり方を思い出しながら、顔を少し傾けて、唇の隙間から舌を挿し込む。その先が上手にできなくてもたもたしていたら、一瀬くんのほうから舌を合わせて絡ませてくれた。ちゅ、ちゅ、と軽く音を立てながら舌先を吸われて、そうするとつい鼻にかかった甘い息が漏れてしまう。ああ、どうしよう。私、いま気持ちいいって思ったんだ。こんな短いキスで、こんなにも感じてしまうなんて。
――それならやっぱり私って、一瀬くんのことが好きなのかな。そうだよね。そうに違いない。
「好き、一瀬くん。……すき、だよ」
自分の気持ちを確かめるように何度も声に出していると、「それなのに、まだ名前で呼んでくれないんですか」と困ったように返される。
「……夏生、くん」
初めて口にしたその名前は、どうにも耳馴染みのない響きで。そのせいか、自分とはかけ離れた、どこか遠くの知らない言葉のようにも感じてしまう。私が私じゃなくなっていくみたいな、すごく心細い気持ちになる。それでも、私が「好き」と付け足せば、目の前の顔は幸せそうにふにゃりと崩れた。
僕もです、とだけ返したその唇が、もう一度私の唇へと重ねられる。おずおずと挿し込まれてきた舌は、私が抵抗しないことを確認すると、すぐに私の舌に絡みつく。深いキスに頭がくらくらして漏れ出た小さな悲鳴は、それすらも逃がさないとでもいうように唇でふさがれた。息が苦しいのに、やっと静まりかけていた熱がだんだんまた体に集まってくるのが止められない。自分の意思とは関係なく腰が浮いてしまうと、今度はすかさずそれを片手で抱き寄せられた。
ちゅぱ、と音を立てて離れた唇が、満足そうに笑みの形に緩められる。
「ほんとに僕とのキスで気持ち良くなってくれるんですね。こんなに感じちゃって……可愛いな」
そう言いながらまた唇を合わせてくるから、反論もできずにただ受け入れるしかない。息苦しくて身をよじると、腰に回された手が移動して、私の内ももをゆるゆると撫で回す。それだけで私の体は敏感に反応した。足を開かされると、すでに潤み始めていた中から、とろ、と雫がこぼれて。それを見た一瀬くんが、ごくりと音を鳴らしてつばを飲む。
「ああもう、また中にほしいんですか」
どこか呆れた感じで、でも嬉しくてたまらないというような声で一瀬くんがつぶやく。
「一回しただけでこんなにハマってくれるなんて嬉しいです。体の相性がいいんですかね。実は僕も、まだ全然足りなくて」
違う、私はそんなつもりじゃない。そう伝えたくて首を横に振ったけど、そんなわずかな抵抗ではなんの意味もなくて。一瀬くんはキスの合間に器用にゴムを付けると、ぐちゅんっ、と水っぽい音を立ててまた私の中に入ってきたのだった。
「ぅあっ、」
私の気持ちになんか見向きもしないで、ぐっ、ぐっ、と無理やり中を押し広げていく一瀬くん。いちばん奥まで腰を進めると、すぐにキスの続きが始まった。ろくに抵抗もできずにされるがままになっていると、ゆっくりと中を撫でるみたいに腰を大きく動かされる。苦しい、辛い。それなのに、どこにも逃げ場がないなんて。頭も体も、もちろん心も、私の中の何もかもが壊れていく気がした。もう何も追いつかない。
「う……、ぅ、ぐっ」
ぬちぬちと湿った音を鳴らしながら往復するその塊が、その圧迫感がすごく苦しい。思わずうめき声に近い声を漏らしても、一瀬くんにとってはそうは聞こえないらしく、「ふふ、気持ちいいですね」なんて言いながら頭を撫でてくるだけ。そこに私の意思が入る隙間なんてなくて、必死に耐えているうちに、そのうち、体が勝手に気持ちいい感覚を拾い上げてきてしまう。
「……ひっ♡」
「ん……、まいさんはここが好きなんですね」
突然声を上げた私を見逃してくれるわけもなく、一瀬くんは体勢を変えて、すぐにその場所をめがけて腰を打ちつけてくる。そうすると私はもうそのことしか考えられなくて、ますます体が言うことを聞かなくなった。
一瀬くんを喜ばせるような甘い声が抑えられなくなって。もっともっと、とねだるように腰が揺れて。私がこんな状態になったら、一瀬くんのほうから止めてくれるわけもない。そうして、結局私はまた、何もかもを受け入れるしかなくなっていく。自分でももう、自分が本当に嫌だと思っているのかなんてわからなくなった。
どうしたって同じ結末になるのなら。いっそ、ただ与えられる甘い刺激に身を任せてしまったほうが幸せなのかもしれない。
それに気づいてしまえば、あとは簡単なことだった。
「っん……ん、……んぅ、ぁ……あっ♡」
「はは、かわい……。もうとろとろですね」
打ちつけられる腰の動きに合わせて、わざと大げさなくらい甘い声を上げる。痛いのと苦しいのを我慢して、「気持ちいい、気持ちいい」と自分に言い聞かせながら必死に腰を動かす。そうしているうちに、本当に気持ちよくなっていく気がするから不思議だった。私の反応が良いこともあってか、夏生くんもどんどんのめり込んでいて、すでに思考は溶けているらしい。遠慮なんて忘れてしまったかのように激しく体を揺さぶられて、意識がうまく保てないけど、むしろそれがありがたいと思った。今は気持ちいいということ以外、何も考えたくなかったから。
自分の喉から漏れ出る甘い声も、勝手に跳ねて止まらなくなる腰も、だんだん夏生くんの好みに染められていく自分も。ときどき涙で視界が滲むのも、きっと、私が気持ちよくなりすぎてしまうせい。私が夏生くんのことを好きすぎるせい。だから仕方ない、好きなんだから。仕方ない。
夏生くんの胸に擦り寄って、「ん」と甘えた声と一緒に舌も差し出せば、すぐにまた深いキスで思考を奪われる。こうしていると、なんだかすごく安心する気がする。余計なことを考えてしまわないように、頭の中を気持ちいいことだけで埋め尽くしていたい。ずっとこのまま、何も考えずに身を任せていたい。
すき、うれしい、きもちいい、もっともっと。
自分の心を塗りつぶして早く楽になってしまいたくて、そればかりを何度も繰り返した。
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恋人(?)の一瀬くん 後日談(前編) - 確かな月日を手放して
全体的に性行為描写を含みます。
※前提から読みたい方はこちら
→ 「恋人(?)の一瀬くん」( https://pictmalfem.net/items/detail/100232 )
【含むかもしれない要素】
バッドエンド(人によってはメリバだと思うかも。とにかく後味悪め) / 1対1の創作男女カプ(攻:男の子、受:女の子) / ♡喘ぎ少しあり(※2人とも) / 無理やり(同意なし)

