バッドエンドif - 恋人(?)の一瀬くん
ゲーム全体を通して主人公(まいちゃん)が一瀬の好感度をかなり上げてから、最後の告白だけを断った場合に進むエンディング(特殊なバッドエンド)を想定して書きました。バッドエンドシナリオなのでわりと暗いです。
※2年目(一瀬高2&まいちゃん高3)の夏頃に一瀬から告白されて、それをメッセージアプリで断った後のシーン。
さんざん好感度を上げ続けてから最後の告白だけメッセージアプリで雑に断る、という条件で到達するエンディングなので、ある意味主人公側にも非がある感じです。
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もちろん一瀬くんのことは嫌いじゃないけど、ときどき重すぎる時があるというか。そういうところがちょっとだけ苦手だ。
友達としては好きでも、ここで中途半端に期待させても可哀想だし。きっとこれでよかったんだよね。
(出かける気分でもないし、今日は家でゆっくりしようかな……)
◆◆◆
「せんぱ……起き……」
(……?)
ソファでくつろいでいたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「あ……目、覚めましたか? ダメですよ、こんなところで寝ちゃ。風邪ひいちゃう」
──でも。
「どうして一瀬くんが家に……?」
「ふふ、どうしてでしょう」
そう。
いま私の目の前には、なぜか一瀬くんがいる。
どうして? 玄関の鍵はちゃんとかけておいたはずなのに。
「先輩のお部屋って、想像通りとっても可愛らしいですね。お部屋に入るのは初めてだったから、ちょっと緊張しちゃいました」
部屋の中を見回しながら、うっとりとしたような顔で一瀬くんが言う。
「なんで? どうやって……来たの……?」
「え。どうやって、って。普通に合鍵ですけど」
そう言いながら、一瀬くんがポケットから鍵を取り出した。
もちろん私はそんなものを渡した覚えはない。
「やだなあ先輩、まだ寝ぼけてるんですか? 恋人なんだから合鍵くらい持ってても何もおかしくないでしょう?」
やれやれ、とでも言うようにわざとらしくため息を吐く一瀬くん。
「え、いや。ちょっと待ってよ」
「なんですか?」
「恋人……じゃないよね。私たち」
一瀬くんの言っている意味がわからなくて、なんだかとんでもない勘違いをされている気がして。自分の認識が間違っていないことを確認したくて、慌てて口を開いた。
「……先輩、その冗談はさすがに笑えないですよ?」
一瞬、一瀬くんがすごく冷たい目をした気がした。
「え、冗談じゃなくて」
「ふふ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」
全然聞き入れてもらえる様子がないので、だんだん、もしかして本当に私が間違っているのかな? なんて思えてきてしまう。
でもやっぱり、私は確かに一瀬くんの告白を断った記憶がある。夢じゃない、はず。
「……先輩」
私が一人でうんうん悩んでいると、一瀬くんがさっきまでとは違う穏やかな声で呼びかけてきた。
「もう隠さないでくださいよ。全部わかってるんですから」
「ん? 隠すって……なにを?」
「知ってるんですよ。先輩、本当は僕のこと、ずっと前から好きでいてくれたんですよね」
もしかしてやっとまともに会話をしてくれるのかな、なんて内心ほっとしながら耳を傾けたのに、その後に続く言葉はやっぱり意味不明なものだった。
「だってそうでしょう? 先輩、いつも僕に思わせぶりなことばっかり言ってたじゃないですか。でも今思えば、あれは先輩なりの愛情表現だったんですね」
そうやって、何かを懐かしむみたいに一瀬くんは言う。だけどもちろん、そんな出来事は私の記憶の中には存在しない。
「僕、今までそれに全然気づいてなくて。先輩のことを誰よりも見ていたくせに、こんな簡単なことにも気づけないなんて……」
普段から一瀬くんは何を考えているのかわからないことが多いけど、今日は特にそう。話が通じる気がしないから、私もとりあえずは黙って聞くだけにする。
「今日だって、せっかく勇気を出して告白したのに断られて……実はかなりショックだったんですよ」
まあさっきまでの話ですけどね、とよくわからない補足をしながら、一瀬くんが私の頭をポンポンと撫でてきた。
こういうことをされると、知らないうちに自分が一瀬くんの所有物にされたみたいな気がして不安になってくる。やめてほしくて頭に伸びてくる手をそれとなく避けたら、「照れなくてもいいのに」と少し不満そうにされた。
「僕、やっと気づけました。先輩は僕を試していたんですよね。だからわざと突き放すようなことを言って、僕の気持ちを確かめようとしたんですよね」
「なんのこと……?」
「ふふ、また照れ隠しですか? 先輩って素直じゃないですよね。……でもそんなところも可愛い」
私って、一瀬くんからはどんなふうに見えてるんだろう。一瀬くんの想像の中の私は、現実の私よりも一瀬くんのことが好きみたいだけど。
今までけっこう長いこと一緒にいた気がするけど、もしかしたら一瀬くんはずっと、自分で想像した私の姿を見ていたのかな。本当の私を見ていてくれたわけじゃなかったのかな。そう思うと少し寂しくなった。
「もう……、そんなに見つめられたら恥ずかしいじゃないですか」
「!?」
ぼーっと考えていたら、いきなり一瀬くんに抱きしめられた。
あまりに突然のことだったのでろくに抵抗もできず、かなり変な体勢で抱きしめられてしまっている。体勢のせいなのか、一瀬くんの力加減がおかしいのか、わからないけど少し体が痛い。
でも一瀬くんは完全に自分一人の世界に入ってしまっているようで、気づいてもらえる気配はなさそうだった。
「僕だってずっと前から先輩のこと好きだったんですよ。僕のせいで遅くなっちゃったけど、これでやっと先輩と一緒になれるんですね。ふふ、大好き」
感情が高ぶりすぎているのか、私を抱きしめる力がどんどん強くなっている。だけど、抵抗しようとしても余計に力を込められてしまうばかりで全く意味がない。いくら年下とはいえ、力では絶対に敵わないのだと思い知らされた気がした。
今まで全然気がつかなかったけど、身長が伸びないと悩んでいたわりには、体だって私に比べたら十分大きいし。
「好きです、先輩。好き。先輩以外何もいらない。僕の本気、伝わりましたよね」
いま抵抗しようとしても無駄だと悟って大人しく体の力を抜いたら、一瀬くんはそれを都合よく解釈したらしい。
先輩も嬉しいんですね、なんて言いながら、私の頬に唇を押し当ててきた。
何度も、何度も。
(このまま私、一瀬くんの彼女ってことにされちゃうのかな……)
もういっそ、それでもいいのかもしれない。
なんだか全部、面倒だなと思えてきた。これ以上説明するのも、考えるのも、拒絶するのも。全部。これも寝起きで頭がぼーっとしているせいなのかな? いや、ただ単に私が面倒くさがっているだけ?
一瀬くんと付き合いたいと思ったことは正直一度もないし、これからもきっとない。だけど別に、生理的に嫌いとか、顔も見たくないとか、そういうことでもない。
一緒にいると楽しいけど、一緒にいすぎると疲れる。私にとっての一瀬くんはいつもそんな感じ。
私がされるがままになっているのをいいことに、さっきから一瀬くんは私の頬に吸い付いたり舐めたりと、かなり好き放題やっている。
不思議と気持ち悪いとは思わなかった。あとでちゃんと洗おうとは思うけど。なんかもう、どうでも良かった。どうせまともに話し合えるわけでもないし。
「……い、嫌がらないってことは、その。やっぱり先輩も……同じ気持ちなんですよね?」
「……?」
「僕のこと欲しいって思ってくれてる? ……僕にこういうことされるの嫌じゃない? 嬉しいですか?」
いま自分の身に起きていることをあまり考えないようにしていたから、突然そんなことを聞かれてもすぐには理解が追いつかなかった。
そういえば頬への感触がなくなっていることに気づいて、耳元でハアハアと聞こえる荒い呼吸音に意識が向く。耳にかかる吐息がやけに熱く感じて思わず目を閉じた。
(そう……なの? 本当は私、一瀬くんのこと……心の底では好きだったりする?)
そう思って、もう一度よく考えてみる。
だけど、やっぱりそういう意味で好きにはならないかなぁと再認識しただけだった。どう頑張っても、一瀬くん相手に自分がドキドキできる気がしない。そんな状況、全く想像がつかない。
結論が出たところでゆっくり目を開いてみると、頬へのキスにはもう満足したのか、今度は私の顔を真正面から見つめている一瀬くんと目が合った。
ときどき私の口元に注がれるその視線は、どこか熱っぽくて。一瀬くんがこれから私に何をしようとしているのかは簡単に想像ができる。
「ね、ねえ。先輩も……僕のこと、好き? なんですよね?」
ね、ね? と何度も聞いてくる一瀬くんに、「んー」と適当な返事をする。否定する気はなかったけど、この状況で肯定するのもなんだか嫌だった。一瀬くんってすぐ調子に乗るから。
私がちょっと優しくするだけで大げさなくらい喜んでくれて、最初はいい子だなって思ったし、嬉しかったけど。そのうちそれを当然のものとして求められるようになって、だんだん重たいなって感じるようになって。
一瀬くんがたくさんプレゼントをくれること、面倒な仕事を代わりにやってくれること、まるでお姫様みたいな扱いをしてくれること。いつからか、そういうのも全部、何か見返りを期待されている気がして素直に喜べなくなった。
一瀬くんが何のために私にここまでしてくれるのかわからないことが、実はずっと不安だった。今になってやっとその目的がわかったけど、私はそれに応えられるのかな。正直、自信がない。
「先輩好き。すき。お願い……せんぱい」
うわ言のように呟くのは、どこか甘えたような、切なげな、なんだか変な声。別に気持ち悪いとは思わないけど、自分のよく知っている友人のこんな姿を見るのはなんだか気まずくて、心が少しざわざわする。
一瀬くんは本当に私のことをそういう目で見ていたんだなと、どこか他人事のように思ったりして自分の意識を紛らわせた。
「ああ、かわいい……可愛いな……。僕の先輩……」
そろそろ限界なのか、一瀬くんはかなり露骨に私の体を撫で回してくる。ときどき服の中に指先が入ってくるのは……ちらちらと私の顔を見て反応をうかがってくるところを見ると、たぶんわざとやっているんだろうなと思う。
ここまでのことはするくせに、一応最後は私の許可を待ってくれるのが一瀬くんらしいというか、なんというか。
──まあでも、一瀬くんならいいかなぁ。
「……いいんですか?」
この短い時間で考えたことだけど。
一瀬くんならきっと、普通に優しくしてくれるし、大事にしてくれると思うし。とりあえず不幸になることはないだろうと思う。
楽しいかどうかは別として、だけど。
「本当に? いいですか? 先輩の全部もらっても?」
ここで受け入れたら、きっと文字通り私の全部をあげなきゃいけなくなるんだろうなと思うと、本当は少し怖い。でも、今さら断ったところで一瀬くんが簡単に諦めてくれるとも思えない。むしろもっとエスカレートするかもしれないし。ああ、でも、そもそもちゃんと話を聞いてくれるのかどうかすら怪しいんだった。
もしかして、最初からなかったのかな。私に選択肢なんて。
だからもう別に。一瀬くんでも、別に。
「──いいよ、」
私の返事は、最後まで言い終わる前に唇で塞がれた。
【END 恋人(?)の一瀬くん】
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コメント
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