バッドエンドif - ごめんね、一瀬くん
ゲーム全体を通して、主人公(まいちゃん)が一瀬と付き合うことに対して消極的な選択肢ばかりを選んでいた場合に進むエンディング(ごく一般的なバッドエンド)を想定して書きました。バッドエンドシナリオなのでわりと暗いです。
※1年目(一瀬高1&まいちゃん高2)の夏休み、一緒に行った夏祭りで一瀬から告白されて、それを断った後のシーン。
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返事は今じゃなくていい、と一瀬くんは言ってくれたけど、私の答えは決まっていた。
一瀬くんは大事な友達だけど、恋愛対象として見たことはないし、たぶんこれからも一瀬くんが望むような関係にはなれない……。
ここで曖昧な返事をしても良くないし、ハッキリ断ろう。
「先輩、お待たせしました」
そんなことを考えていたら、一瀬くんがラムネ瓶を2本持って戻ってきた。
「ラムネって、いかにもお祭りって感じですよね」
一瀬くんが幸せそうに笑っている。
私も笑顔を返そうと思ったけれど、これから自分が伝えなければいけないことを考えるとなかなかうまく笑えない。
やっぱり、言いづらいけど早く返事をしてしまおう。
なるべくいつも通りに話すように気をつけながら、私は一瀬くんの告白を断った。
「……そうですか。残念ですけど、僕の気持ち聞いてもらえてよかったです」
日が暮れてきたせいか、あたりがうす暗い。
だから今、一瀬くんがどんな表情をしているのか分からなかった。でも、案外穏やかな声でそう言われて少し安心する。
「僕が言うのは変かもしれないですけど、あんまり今日のことは気にしないでくださいね。これが原因で先輩との関係が気まずくなるのは僕も嫌なので……」
自分がいちばん辛いだろうに、そんな様子は全く見せずに優しい言葉をかけてくれるから少し心が痛む。
でも、私も一瀬くんとはこれからも友達として、上手くやっていけたらいいなと思う。
「あ――そうだ。これ。せっかく買ってきたので、ぬるくなっちゃう前にどうぞ。蓋は開けときましたから」
一瀬くんにお礼を言って、ラムネの瓶を受け取る。
ちょうど花火が打ち上がり始めたところだったけど、なんとなくお互い気まずい気持ちがあったのかもしれない。私も一瀬くんもラムネをさっさと飲み干して、今日はもう帰ろうということになった。
◆◆◆
花火の音を遠くに聞きながら、2人で夜道を歩く。
平気だと言ったのに、心配だからと一瀬くんが家まで送ってくれることになったけど。
(やっぱり一人で帰ればよかった……)
隣を歩く一瀬くんは、いつも通りに見える。
だけどやっぱり口数は少ない、というか全くない。もちろん私のほうも、こんなときに何を話したらいいのかなんて全然わからなくて。ひたすら無言で歩いていると、帰り道がいつもよりもずっと長く感じてしまう。
一瀬くんには申し訳ないけど、今日だけは一人で帰りたかったかも。
「……わ」
そんなことを考えていたら突然視界がぐにゃりと歪んで、危うく転びそうになった。
「先輩? 大丈夫ですか?」
「ご、ごめんね。大丈夫、ありがとう……」
一瀬くんが腕で支えてくれたからなんとか助かったけど。体勢を立て直そうとしても、なぜか上手くいかない。
なんだかさっきからとても体が重くて。早くちゃんと立たなきゃ、ちゃんと歩かなきゃと思うのに、一瀬くんに体重を預けたまま動けない──。
◆◆◆
(……?)
目が覚めたら、知らない天井が見えた。どうやら今まで私はベッドの上で眠っていたらしい。
それにしてもずいぶん長い間眠っていたような気がする。眠りすぎたせいか頭がボーっとしているし。
「気がつきましたか?」
しばらくそのまま天井をぼんやりと眺めていたら、一瀬くんが顔を覗き込んできた。
「大丈夫ですか? 気分が悪いとか……どこか痛いところとか、ありませんか?」
そう言う一瀬くんの顔はとても心配そうで。私も早く何か答えなければと思うけど、寝起きの頭では混乱してしまってまともに返事ができない。
「あの……。私、どうなったんだっけ」
とりあえず現状を把握したくてそう尋ねたら、一瀬くんは驚いたような顔をして一瞬固まった。
「お、覚えてないんですか?」
「……えっと。お祭り……に行ったのは覚えてる、……けど」
お祭りのことを思い出したら、ついでに自分が一瀬くんの告白を断った記憶まで蘇ってきた。そのことには触れないように気を付けながら、なるべく気にしていないふうを装って答える。
「まあ、覚えてないならどうでもいいじゃないですか。先輩が元気ならそれで。ね?」
「え、え?」
一瀬くんは結局私の質問には答えてくれず、そんな適当な言葉で済まされてしまった。
ね? じゃないし全然どうでもよくはない。けど、今のこのぼんやりした頭ではこれ以上難しい話を理解できる気もしない。
そういえば、ここはどこなんだろう。
遅くなる前に家に帰らないと。そう呟いたら、一瀬くんが困ったように首をかしげる。
「帰っちゃだめですよ。先輩がちゃんと大人しくしてくれるなら、そのうちある程度は自由に行動させてあげますからね」
「ん?」
「そりゃあ僕だって、本当は先輩をずっとここに閉じ込めておきたいですよ? でもまだ高校生ですからね。面倒なことになるのは嫌だし、ちゃんとした同棲は卒業してからで──」
閉じ込める? 同棲? 話の意味が全然つかめなくて混乱する。さっきから一瀬くんは何の話をしているんだろう。
「ふふ、そんなに警戒しないでくださいよ。もしかしてこの部屋が気に入りませんでしたか? けっこう掃除とかも頑張ったほうなんですけど」
「……?」
「うーん、やっぱり殺風景すぎるんですかね。でも余計なものを置いても邪魔なだけだしなぁ……」
私がろくに返事をしないからか、一瀬くんはいつまでも一人で喋り続けている。だけど特にそれを気にする様子はなくて、むしろその声はどこか弾んでいて嬉しそう。
話している内容的に、ここは一瀬くんの家なのかも。部屋の中の様子が気になって、軽く頭を持ち上げた。
「……っ」
「先輩? 大丈夫ですか?」
体を起こそうとしたところで後頭部に鈍い痛みを感じて思わず顔をしかめると、私の異変に気がついたらしく、一瀬くんが慌てたように声をかけてくれた。
「頭痛? ああ、それなら薬の副作用かな。辛いでしょうけど、今だけのはずなので我慢してくださいね」
私に布団を掛け直してくれながら、何でもないような顔で一瀬くんが言う。
(薬……?)
突如現れた不穏な単語に、自分の体が強張るのがわかる。
「あ、大丈夫ですよ。薬と言っても、怪しいものじゃないです。ただの睡眠薬ですから」
怖くないですからね、なんて言いながらポンポンと頭を撫でてくる一瀬くん。私を安心させようとしているみたいだけど、こんなことをされて簡単に受け入れられるわけがない。
そもそも、薬を盛るとかって普通に犯罪なんじゃないの?
「別に、変なことはしてませんよ。先輩が嫌がることは僕だってあまりしたくないんです」
「もう十分、してると思うけど」
「……もっと、その。先輩を泣かせたり傷つけたり──とか、そういうことをしなかったって意味です。体にも必要以上に触ってないですよ」
私がなかなか納得した様子を見せないことに焦ったのか、一瀬くんがさっきよりは多少申し訳なさそうな顔をした。
だけど実際に反省している感じは全くない。むしろどちらかと言えば、わがままを言う子どもをたしなめるみたいな態度だ。まるで私が悪いとでも言いたげな一瀬くんの言動にはさすがに少し腹が立ってくる。反抗のつもりで軽く睨みつけたら、一瀬くんは怯えたような顔をして慌てて口をつぐんだ。
「……そりゃあ僕だって、できればちゃんと両想いになりたかったですけど。だから告白したんだし」
しばらくそうしていると、また一瀬くんが話し始める。
「でも、先輩にとって僕はただの後輩ですもんね。それ以上の関係にはなれないって……先輩そう言いましたから」
ぽつりぽつりと呟く一瀬くんの話を聞いていたら、急に声が震えたように聞こえて。不思議に思った次の瞬間、耳元でぱたぱたと、シーツが水滴を弾く音がした。
ああ──一瀬くん、泣いてるんだ。
泣いているところをじろじろと見るのは良くない気がして、なんとなく一瀬くんから目を逸らす。
「本当は気づいてました。先輩は僕のこと、そういう意味で好きなわけじゃないって。それなのに僕、どうしても先輩のこと諦められなくて」
私が背を向けたことが不満だったのか、泣き声が少し大きくなった。
それでも泣き止もうとして息を殺そうとしているようだけど、なかなか上手くいかないようで。呼吸音は不自然だし、むしろ余計に苦しそうに聞こえる。
(……)
いきなりこんなことをされて、普通だったらもっと一瀬くんに対して嫌悪感を抱いても不思議じゃない状況なのに、以外とそういう気持ちは湧いてこない。むしろ今、泣いている一瀬くんを無視していることに少し罪悪感まで覚えてしまう。
一瀬くんからは、私を痛めつけようとかそういう意図が見えないからかな。もちろんかなり自分勝手だなとは思うけど。それでも一応、私のことを大事にしてくれようとしてるのはなんとなく伝わってくるし。そのせいで、どうしても嫌いになれないっていうか。
「わかってます、こんな風に無理やり一緒になっても意味ないって。でも僕、怖かったから」
「……」
「いつか飽きられちゃうのかな、先輩が僕の知らないところに行っちゃうのかな、とかそんなことばっかり考えて……」
「……」
「先輩と離れるのが怖い。先輩が傍にいないのがどうしても耐えられない。もうダメなんです、僕」
「……そっか」
後ろに聞こえる嗚咽の合間に、ごめんなさいと呟く声を聞き逃さなかった。一瀬くんからの初めての、心のこもった謝罪。
さっきまでの私は、断りもなく人を家に連れ込んでおいてその態度はないんじゃない? なんて、文句の一つでも言おうと思っていたのに。一瀬くんの言葉を聞いているうちに、いつの間にかそんな気持ちはどこかへ行ってしまった。
ようやく一瀬くんが本当の気持ちを教えてくれているんだから、私ももう少しちゃんと向き合ってみようかな。そう思って、改めて一瀬くんのほうを振り向く。
「僕、先輩と一緒にいる時だけは本当に安心できるんですよ。先輩じゃないとだめなんです……」
一瀬くんの顔は泣きすぎてもうぐちゃぐちゃになっていた。そう思っている間にも涙の粒が次から次へと落ちていくから、見ているとなんだか可哀想な気持ちにすらなってしまって。
涙を拭ってあげようかと伸ばした右手は、顔に触れる前に、一瀬くんの両手に包まれた。
(手、繋ぎたかったのかな?)
しっかりと形を確かめるように私の手を握りしめる一瀬くん。
「……ごめんなさい。先輩のこと、好きになってごめんなさい」
なんて言葉をかけたらいいのかわからなかった。
だけど。
「僕……先輩のためなら何でもします。嫌なところは全部直すし、先輩に好きになってもらえるように頑張ります。頑張るから……」
「……」
「僕のこと、好きじゃなくてもいいですから。僕と、……付き合ってください」
一瀬くんが、訴えかけるような瞳で見つめてくるものだから。
私はそれに、小さくうなずくことしかできなかった。
【END ごめんね、一瀬くん】
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