あずき

四半世紀もののロイエンタール愛。
基本ロイエンタール×エルフリーデをこよなく愛していますが、こちらでは夢小説をupしていくつもりです。
それ以外のロイエル小説(エロあり、ギャグあり、幸せIFあり)はpixivの方で公開しています。

投稿日:2020年08月10日 01:25    文字数:8,143

女流作家Fの習作

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ロイエンタール夢小説、第二弾。
相変わらずロイエンタールは酷い男です。
しかもロイエンタール出てこない場面が長いです。
これ夢小説と言っていいのかと思わなくともないですが、その代わり?エロくしときましたw

夢小説作品

この作品は下記の登場人物の名前を変換することができます。

登場人物1

この物語の主人公。ロイエンタールと交際中の小説家。デフォルトでは“フランツェスカ”となります。
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女流作家Fの習作

キーワードタグ ロイエンタール  銀英伝  銀河英雄伝説  夢小説  R18 
作品の説明 ロイエンタール夢小説、第二弾。
相変わらずロイエンタールは酷い男です。
しかもロイエンタール出てこない場面が長いです。
これ夢小説と言っていいのかと思わなくともないですが、その代わり?エロくしときましたw
女流作家Fの習作
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「好き」だとか、「愛してる」だとか、そんなこと絶対に言わない。
彼と出会って一番最初に、私はそう心に決めた--。



第二章の四分の三まで筆が進んだところで、私は息を吐いてモニターから顔を上げた。
正面の窓から見える景色に視線を移し、疲れた目を休ませる。
西日が反射して、湖面で光が踊る。湖畔の周囲の木々は色づき始め、この場所で冬を越す渡り鳥の訪れももうすぐだろう。
そのオレンジ色の景色から室内の時計に目を遣れば思ったより時間が経っていて、私の心臓が小さく跳ねた。
そろそろかしら--。
そう思いながらも、私は再びキーボードを叩く。締切までは、まだ充分に余裕があるけれど。
小説家兼、銅版画家として世に出て三年。この国では女性の作品は評価されにくく、私は小説に関しては本名のフランツェスカではなく男性名で作品を発表している。そのことに不満がないわけではないけれど、仕方のないことだとも思っていた。
本の売れ行きは“そこそこ”といったところ。銅版画にいたっては趣味の域を脱し得ない。本来ならそれだけで食べて行くのは厳しい。ただ私の場合は、ささやかではあるが両親が遺してくれた資産があるのでなんとかやっていけている。
小説だけでなく銅版画家としての作業をするには市街のアパートは手狭なためにこうして仕事場にしている郊外の小さな別荘も、生前の父が週末になると過ごしていた場所だ。
この静かな湖畔で、私は男の訪れを待つ--。
いや、待ってなどいない。決して、待ちわびてなんかいない。


チャイムが鳴ったのは、外に夕闇のカーテンが降りきった頃だった。
出迎えた軍服姿の男は形ばかりに私を抱き寄せ口づけたが、二週間の無沙汰を詫びるでもなければ、ましてや寂しかったなどと訴えることもしない。
唇が離れると私は男のその特徴的な黒と青の瞳から目をそらし、努めてそっけない態度で言った。
「今ちょうど筆が乗ってきたところなの。切りが良いところまで進めてしまいたいから待っていて。食事は?」
「すませた」
付き合い始めた頃こそ外で食事を共にすることもあったが、それなりの資産家らしい彼が私を連れて行く高級店はどうにも居心地が悪く、いつの間にか会うのは私のアパートかこの仕事場になってしまった。
31歳にして上級大将という立場から考えても、普段から贅沢をしていてもおかしくはないと思う。
それでいて私があり合わせのもので作ろうが、冷凍食品を温めただけの料理とも言えないようなものを出そうが、文句も言わず残さず食べるのだから彼の嗜好がいまだによく分からない。
分かるのは、それが私への愛情ゆえの行動ではないことだけだ。
今日は気まぐれに、以前一度だけ彼が「美味いな」と言った亡き母に教わったレシピのフリカッセを用意したのだが、私はそれを言う気にはなれなかった。
私は彼に背を向けて、リビングの一画にある仕事用のデスクに再び座る。
モニターをスリープモードから立ち上げると、後ろで「シャワーを借りる」と彼の声がして部屋を出る気配がした。
外で会うことがなくなれば、なおさら身体を繋げるためだけに会っているという気がしてくる。セックスは嫌いじゃないけれど、常に男が欲しい訳じゃない。
漁色家と名高い彼と将来を共にしたいなどと思ったことはないし、甘い恋愛ごっこがしたい訳でもない。
それではなぜこの男と付き合っているのだろうと思うが答えなど出なくて、せめて飯の種にしてやろうかと、ふざけて言ったことがあった。
「ねえ、いつかあなたをモデルにした話を書いてもいいかしら」
彼は、ほんの少しだけ眉をひそめた。
「絶世の美男子で富も地位も名誉も手にしているのに、人を愛することだけができない男が--運命の女に出会うの。どうかしら」
「言ってくれるな。勝手にしろ」
鼻で笑って、そして思い付いたように彼は尋ねた。
「その話の結末は決めているのか?」
私は少しだけ迷って答えた。
「私が書くのは、いつも悲恋の物語なのよ」と。


ドアの開く音で回想は途切れ、私は執筆に集中していたふりをする。
けれど私の意識の大部分は見えない背後に向いていて、書くべき内容などひとつも浮かばない。同じようなフレーズを、入力しては消すを繰り返す。
バスローブを着た彼が冷蔵庫を開け氷を取り出す。それをグラスに入れると、ウイスキーのボトルを取り出しそこに注ぐ。音だけで見えはしないそれらの動きが、私の脳裏に再生される。私の心に焼き付けられた、淀みない美しい動きが。
そしてしばらくすると、おそらくグラスの中身を飲み干したであろう彼が私の背後に立った。
それでも私はまだ振り返らない。だっていつも待たされているんだもの。たまには待たせてみたいじゃない。
「まだ、かかるのか?」
彼の手が私の左肩に触れ、思わずビクリと身体が震える。耳元に吐息がかかり、名を呼ばれた。
「フランツェスカ」
その甘い声音は私に小さな火を点す。でも--。
「もうちょっと」
そう答えると、抗議するように彼の右手が私の身体の前に回り胸を、腹を、太腿を這った。それだけで私の体温は明らかに上昇したけれど、もう少し強がってみる。
「ねえ、あと10分待って」
「今夜はずいぶんと焦らすじゃないか」
もう一度耳元で囁く声は反則なくらい官能的で、私の心を掻き乱す。
彼の手がロングスカートをたくし上げ私の太腿が露わになれば、そこに男らしいくせに繊細な指が直接触れる。彼の手は少しだけ冷たい。
指先が揉みほぐすように柔肌を押しながら内腿へと進んでくると、私は力が抜けて椅子の背もたれに身体を預けた。すると後ろから覆い被さった彼は私の顎を持ち上げ、強引に上を向かされた唇に自分のそれを重ねた。
こんな体勢、苦しいのに--なのに口づけは心地よくて我を忘れそうになる。けれど完全に忘我の淵に落とされる前に、唇は離れていった。
分かってる。彼は口づけに溺れたりはしない。
再び降りてきた彼の手が、今度は容赦なく私の中心に触れた。布地越しに敏感なそこを押され、そして割れ目をなぞられ、与えられる快感に私はぎゅっと目を閉じる。
ああ--じわりと滲む快楽の証に、彼はもう気付いているだろうか。
反対の手がブラウスの胸もとから入り込み、胸の先端を軽くつねられた。もう、降参……そう思ったとき、触れていた彼の両手が遠ざかった。
目を見開いて振り返れば、彼は唇に意地の悪い笑みを浮かべ「どうぞごゆっくり」と言うと、リビングの中央に戻りテーブルの上にあったグラスを取り上げた。
私はあんまり悔しくて、勢いよくデスクに向き直る。スカートを直しながら、下唇を噛んだ。
そうしてキーボードを叩き、無理矢理に章の終わりまで書き上げる。身体の熱を持て余しながら書いたその部分は、きっと使い物にはならないだろう。何をやっているのかと、私は溜息を吐く。
立ち上がりソファに座っているはずの彼の方を見ると、横になり目を閉じていた。
「眠っているの?」と尋ねても返事がない。
珍しいこともあるものだと驚きつつ、それだけ疲れているのだろうと納得する。当然だ、なぜなら……。
胸が締めつけられるような思いがして、そっと近づいた。横に跪いて、顔にかかった艶やかなダークブラウンの髪に触れる。長い睫毛が落とす影を見つめるこの時間を、宝もののように感じた。
結局、私はこの男に惚れているのだ。どんなに意地を張っても勝てやしない。
「ねえ、起きないのなら私の好きにするわよ」
だって、火を着けたのは彼の方だ。
私はソファの上に乗り、バスローブ姿の男に跨がった。はだけられた胸に手を差し入れて、張りのある筋肉の手触りを確かめる。
その行為は相手に快感を与えるためでなく、ずっと燻っていた自分の欲望を掻き起こすためのものだ。胸の先端が指先に触れると、男の指先に自分が施された刺激を思い出し、身体の中心にまた火が点いた。先ほどの仕返しに軽くつねると、彼の身体がピクリと動いた気がする。
それでも目を閉じたままなので、私は後ずさり今度はバスローブの下半分に手を侵入させた。
膝から太腿をゆっくりと撫で上げる。内股さえも自分のそれとは違う鍛えた男特有の密度を感じ、けれどやはり日に当たらぬそこは他に比べればやや白く、なんだかとてもいやらしく見えた。
いやらしいのは、どちらかしらね。自嘲しながら、遠慮なく彼の身体の中心に手を伸ばした。
私が知る他の男のものよりは逞しいそれを、軽く握りこむ。まだ柔いそれを可愛がるように、いや苛めると言った方がいいのだろうか、小刻みに手を動かして柔らかな表面と芯との摩擦を生んでやる。最初はゆっくりと、徐々に早く。
しばらく続けていれば手の中のそれは堅さと熱さを増し、手を離しても緩やかに立ち上がる。
私の方が、限界かも。溜息を一つ吐いて腰を上げ、スカートを持ち上げながら座る位置を調整した。
熱くなった彼のそこに、私はやはり熱くなった自分の入口を宛がう。布地越しにも熱を感じて、身体中の血液が沸騰しそうになる。
割れ目を擦りつけ、できる限りの快感を追う。
「はあっ、あ…っつい……」
腰は前後に揺すりながら、私はブラウスを脱ぎ捨てる。手をついて前屈みになりグリグリと押し付ければ、更に堅さを増した彼の欲望が私をまた刺激する。
すごく気持ちいい--でも、足りない。
私は自分の汗とそれ以外のもので湿って重くなったショーツに手をかけた。
その時、下から声がした。
「良い眺めだな」
少し細められた二色の瞳がこちらを見ている。
私は見詰め返して、くすりと笑った。
「起きないはず、ないものね」
「いつから気付いていた」
「最初から。私が近づいたときから、起きてたんでしょう?」
彼は答えなかったけれど、その沈黙は肯定。彼が、人の気配に気付かないほどぐっすり眠るはずがない。そこまで私に気を許してなどいない。
「このまま続ける? もう待ちきれないの」
「散々焦らしておいて勝手なものだ」
彼は呆れるように言い、上半身を起こした。
「ベッドへ行こう。先に行って待っていろ」
やっぱりね。このままだと都合が悪いのよね。
「ピルなら飲んでるわよ」
別にこの男のためではなく、以前からの習慣だけれど。
「ああ」
そう頷く彼は涼しい表情で、その綺麗な顔が腹立たしい。
私は黙って寝室へ向かった。
薄暗い部屋のベッドの上で想う。別に彼の子どもが欲しい訳じゃない。未来を誓えぬ相手にそんなことは思わない。
では、より強い快感が欲しいのか? 違う。私は見たいのだ。強い自制心を持って、おそらく戦場でも取り乱したことなどない男が、理性をなくしてしまうところを。快楽に溺れる彼を。私の中へ、なすすべ無く欲望を放つ彼を。
彼がそんなふうになる相手など、いるのだろうか。それが運命の女なのだろうか。
胸が苦しい。そんな女、現れなければいい。そう思う私は酷い女だ--倒れ込みそうになった頃、彼がやって来た。
もう一秒も惜しくて、彼に縋りつく。そんな私に彼は苦笑しながら言う。
「フランツェスカ、何をしていた。スカートくらい脱いでおけ」
言われて初めて気が付いた。私はブラウスこそ脱いでいたが、他はそのままだ。
「仕切り直すか? それとも俺に脱がして欲しいのか?」
私は首を振る。
「今すぐちょうだい」
彼は私の背中に手を回し、支えながらゆっくりとベッドの上に横たえてくれた。
スカートの中に両手が入ってきて下着に手をかけるのに、私は腰を浮かせる。それが爪先から引き抜かれ、彼の指先からベッドの下にひらりと落ちた。
足首を摑まれ開かされても、羞恥心よりやっと……という悦びの方が大きい。すぐに彼がにじり寄り、そして貫かれた。
「あっ! はぁ……っ」
私の中を分け入ってくる熱い楔が、一瞬で私を高みへ追い上げる。腹立たしさも、胸の痛みも、すべて忘れてしまうほどの恍惚。
小刻みな律動に追い立てられ、私は何度も軽い絶頂を味わう。いつも私ばかりが乱される。
私は彼の腰に足を絡める。捕らえて離さぬように。せめて、少しでも深く強く彼が私を感じるように。
たとえ彼の記憶に残らなくても、確かにその一瞬同じ高みを見たという事実を残すために。
私は押し寄せる悦楽の波にさらわれないように、彼を見失わぬように、必死に縋りつき、彼を締めつけ、彼を奥へと誘い、叫んだ。
「お願い、お願い、行かないで」
こんな時に口走る言葉に意味なんてないことは、きっと彼も知っているから。だから彼は答えない。
ああ、気持ちよくて--死にそう。いっそこのまま儚くなってしまえば、別れの辛さも知らないでいられる。こんなことを考えてしまうほど溺れる予定じゃなかった。ほんのひと時、甘い夢を見られればよかったのに。
悲しい恋の結末なんて、たくさん知っているから。そうはなりたくなかった。深みにはまらぬように、囚われないように、自分にも嘘を吐いて愛していないふりをした。
急に彼が私の腰を持ち上げ、深くを抉った。
「あっ、もう……だめ……」
それでも、まだもう少し感じていたい。限界まで。
「フランツェスカ……っ、我慢をするな」
その声からすれば彼だってもう余裕がないはずなのに、狡いわ。やっぱり私ばっかり。
「はぁっ、どう……してっ」
どうして、一緒じゃ駄目なの。どうして一緒に行けないの。
彼が腰を捻る、突き上げる、引き戻し、また突き上げる。
「オスカー……! ----のっ」
私はその瞬間、何かを叫んだ。それが、自分に戒めた愛の告白ではなかったことを願いながら、私は意識を手放した。


目を覚ますと、彼はまたロックグラスを手にしていた。ちょうど飲み終わったところなのか、中で残された氷だけがカラリと音を立てる。
「私にもくれる?」
普段飲むことのないウイスキーを、今日はなぜか飲んでみたいと思った。
彼が持ち込んだウイスキーはきっと私が気軽には買えないような高級品で、けれど彼はそれを惜しみなく注いだ。
「ちょうど、空になったな」
そう言いながら、再び琥珀色で満たされたグラスを私に差し出す。
その何気ない言葉が、彼の手からそれを受け取る私の心を引っ掻きほつれを作った。ほんのわずかに触れた指先が離れていくのを目で追いながら、私は言う。
「よく、時間が取れたわね。もうすぐ--行くんでしょ」
来週にもこの男が大軍を率いてイゼルローン回廊へ侵攻することを知らない者は、今のこの国にはいない。
それに対して、彼は眉ひとつ動かさずに答える。
「まあ、最後くらいは顔を見てと思ってな」
ああ、そういうこと。
私はグラスの中身を一気にあおった。
「お前も、いつ帰ってくるか分からない男を待つより身軽でいいだろう」
なんて勝手な男だろう。最初から知っていたけど。
彼が私の隣に座る。私はその黒と青の瞳をのぞき込み何かを探したけれど、どんなに目を凝らしてもそれは見つかりそうになかった。
「出発の日、軍港へ見送りに行ってもいい?」
彼は少し驚いた顔をした。
「なんだ、お前らしくないな。そういう感傷的なことをするのは」
「違うわ。あなたの旗艦、あれが見たいの」
この答えは先の問いほどは意外ではなかったようだけれど、彼はほんの少し眉を上げて怪訝な顔をした。
私は目を逸らさずに続ける。
「好きなの。あのふねが」
手を伸ばし、彼の頬を包む。
「綺麗で、強くて--冷たくて」
ベッドに膝をのせその身体に半ばのし掛かるようにすれば、彼はそのままベッドに身体を倒した。
怖いほど整った美しい顔を、私は見下ろす。
「泣くな。お前には似合わない」
「泣いてなんか--」
いつの間にか涙が頬を伝っていた。嫌だ、こんなところ見せたくないのに。
私はそれ以上涙がこぼれないように耐えながら、睨むように彼を見つめる。
さっきから「お前らしくない」とか「似合わない」とか、いったいどれだけ私のことを知っているというの。
何も知らないくせに。
あなたが訪れる日、普段は化粧っ気のない顔に真新しい淡いルージュをひく。その唇が思わずほころんでしまうこと。
あなたが朝を待たずに帰った夜、胸の痛みを抱いて眠れぬまま朝焼けを見たこと。
大本営の発表した侵攻作戦に、あなたの名前があるのを見つけたときの私の気持ち--。
全部知らないくせに、分かったようなことを言わないで。
私は表情を変えない端整な顔に引き寄せられる。唇に噛み付くように口づけたけれど、彼はされるがままだった。
それが、私から彼にした最初で最後の口づけになった。

そして私は彼が知らせてくれた時間に、飛び立つふねを見送った。
渡り鳥のように再び私のもとへ降り立つことは、ないと知りながら。




ラインハルト・フォン・ローエングラムが宰相となった頃から徐々に変化はあったものの、新王朝がたってから文壇の事情は劇的に変わった。
私が初めて本名で発表した小説は、驚くことにベストセラーとなった。
挿絵も自らの銅版画によるもので、それを画廊ギャラリーで展示してもらえることになり、私自身も何度か足を運んだ。
展示が始まって三日目のことだったろうか。年若い女性が、熱心に私の作品を見てくれていた。恋愛を描いた私の小説の読者は女性が多い。
ある一枚の絵--それは銅版画に彩色を施したものだ--の前でずいぶん長いこと動かないでいるので、少し気になって私はさり気なく近寄ってみる。
クリーム色の髪をした女性の横顔は、とても綺麗で気高く見えた。ふいにその唇が動く。
「似てるわ……」
その呟きに思わず「えっ?」と声を出してしまい、それに気付いた女性がこちらを振り向いた。正面から見れば、思った以上に若い。
「失礼しました。とても熱心に見て下さっていたので--」
彼女は私の言葉に怪訝な顔をして、少し首を傾げた。
「私の、作品なんです。その版画も小説も」
面と向かってこう言うことに私はまだ慣れず、面映ゆい。
その整った顔立ちを驚きの表情に染めながら、彼女は言った。
「私、小説も読みました。とても素敵だったわ」
「ありがとうございます」
その言葉は素直に嬉しかった。
「あの、登場人物には……モデルがいるのかしら?」
そう、彼女は先ほど「似てる」と言った。私が彼を思いながらえがいた男を見て。
「いるような、いないような……」
私は微笑みながら、そうはぐらかす。
「変なこと訊いてごめんなさい。知っている男によく似ていたから--まさか、と思って」
「そうですか。そんなに似ているのかしら?」
尋ねれば、彼女は少しの間だけ宙を睨んでそして小さく首を横に振った。
「やっぱり、そうでもないかも。瞳の色が--違うし」
それを聞いて私はドキリとする。いえ、彼女が言ったのはそういう意味ではない。ただ、小説の人物の青い目とは“違う”と言っただけだ。左右の色が異なるなんて言っていない--。
その時、背後から声を掛けられた。
「フランツェスカ」
振り向くと、少しだけ彼に似た男が穏やかな微笑みを湛えながら立っている。
「あなた……もうそんな時間かしら」
「少し早く着いてしまってね。お話中だったかな、ごめんね邪魔して。ゆっくりでいいよ、作品を見ているから」
私の問いにそう答えると、傍にいる彼女に軽く会釈をして離れていった。
すると彼女が言う。
「あ、もしかして--今の人が、ご主人がモデル……?」
私はまた曖昧に微笑む。
「あの、物語はまだ続きがあるみたいだけれど、結末はもう決まっているのかしら?」
彼女は彼と同じ事を訊いた。
「ええ。もちろんお話することはできませんけど」
そう答えたあと彼女に別れの挨拶をして、私を待つ夫のもとへ向かった。
彼女には言えなかったけれど、私も今なら幸せな結末もえがけるの。だから、こう願うこともできるわ。
いつか彼が運命の女性に出会えますように、と。
そして私は夫の温かい手を取る。そうする時、三回に一度は冷たかった彼の手を思い出すけれど--。
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